Columnコラム

父の思い出

 公認会計士になることを勧めたのは父である。正確に言うと会計士になることを後押ししてくれた。NTTを退職して3か月、再就職活動がうまくいかなくて弱気になっていた私が、さして自信もなかったが会計士試験を受けてみようかな、と言った時に「俺でも受かったんやから、お前なら受かる」と言ってくれた。

 父は国税調査官を経たあと、30歳すぎに当時まだ目新しい資格であった公認会計士になった。大阪で会計事務所を開業し、それなりに順調にやっていた。もともと父は地元の高校を出て、東京の大学に入ったがほとんど授業は出てない。学費のため、そして母と妹を養うためにいろいろなアルバイトをしていたらしい。卒業前には一升瓶を抱えて教授のところに頭を下げに行ってなんとか卒業したそうだ。お酒が好きで、酔っぱらうとよく「俺はな、寄らば大樹なんてのは大嫌いなんや」と言っていた。監査法人で働いていたときも、実家に帰るたびに「お前、まだ監査法人なんかに勤めてるんか。早く辞めて独立したらどうや」と言われたものだ。

 結局私は、父の言葉通り監査法人を5年半務めたのちに独立したのだが、多少の心細さはあっても、不思議と不安はなかった。父の独立独歩な生き方をそばで感じていたからなのかもしれない。私も事務所を続けて26年になった。個人でやっていて心細くないですかと言われることもあるが、看板がどうあれ、つきつめれば本質はトップ本人そのものだ。そんなものの見方は、やはり父譲りなのだろうと思ったりする。